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札幌高等裁判所函館支部 昭和24年(を)230号 判決

被告人

春木淸

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人樋渡道一の控訴趣意第一点について。

(イ)  記録並びに原裁判所で取調べた証拠によると、曩に函館簡易裁判所に於て、本件とは別個に、被告人に対する臨時物資需給調整法違反事件に付、被告人が本件物件を不正に讓渡したという理由で、有罪判決の言渡があり、該判決は、上訴申立期間の経過に因り、本件原判決言渡前に確定したことを認めることが出來る。しかしながら、右別件は前敍の如く、被告人が本件物件を不正に讓渡したという事実を内容とするに反し、本件は適法な出荷証明書なくして、之を輸送したという事実を其の内容とするもので、両者は自ら別個の行爲を対象とするものであり、且つ、右両個の行爲は、通常手段結果の関係ありとは見ることが出來ないから、本件被告人の所爲は右別件と同一の犯罪というべきではない。從つて、原判決には所論の如き違法はない。

同第二点について。

(ロ)  違法性の認識は、犯意の内容として、之を必要としない即ち犯意は罪となるべき事実の認識予見あるを以て足り違法の認識はその要件でないものと解すべきであるから、被告人が、本件「いか油」は統制外であると思つて之を輸送したとしても、之が爲に犯罪の成立に影響を及ぼさないのである。よつて、此の点に関する弁護人の主張も亦採用することは出來ない。

(弁護人樋渡道一の控訴趣意第一点。)

原判決は憲法第三十九條刑事訴訟法第三百三十七條の違反且理由不備の違法ありと信ず。

原判決は被告人が出荷証明書なくして昭和二十三年九月大阪市の春木政夫に対し又同年十月姫路市の松本喬に対しいか油を輸送したる事実を認定して臨時物資需給調整法並に重要物資輸送証明規則違反なりと爲し罰金五千円に処する判決を言渡したり。

然共右の事実に付きては本件公訴受理前即ち昭和二十三年十二月末被告人が春木政夫及松本喬にいか油を讓渡せりと爲し油糧需給調整規則違反として同裁判所に公訴提起せられ其審理中本件公訴が提起せられたるものなるを以て弁護人は此の両件は全く同一の事実なれば其併合審理を求めたること本件記録編綴の昭和二十四年六月三日附併合審理請求書の如くなる処原審は別件は旧刑訴施行時の公訴なれば手続上本件とは併合審理を爲すことを得ずとなし弁護人の右請求を許さず強いて本件を処罰せんとせば別件に於て其罰條を追加せしむれば足るものを夫れをも爲さず審判不可分の原則に反して同一事実を同一裁判所に於て二個の事件として審理せられたる不法さへあるに右別件は昭和二十四年七月十二日罰金三万円に処する旨の判決あり該判決は控訴期間の経過によりて確定せられたるを以て弁護人は本件は憲法第三十九條に違反する所且つは刑事訴訟法第三百三十七條により免訴判決せらるべきことを強調したること本件記録添付昭和二十四年八月二十三日附準備書面の如きに不拘原審は此等弁護人の強調を無視し何等の解明をも爲さず前記の判決を言渡したるは冒頭記述の如き違法ありと信ず。

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